バカと悪戯
移動教室の帰り道廊下を歩いていると声をかけられる。
誰かと思えば小学校からの腐れ縁のバカだった。
バカとは随分と辛辣な物言いだと思われるかも知れないけれどこれは仕方のないことなのだ。
私が彼をそう認識するようになるまでの歴史はここでは語り尽くせない。
振り向いて損をした早く教室に帰ろう。そう思ってくるりと方向転換しそそくさと歩き出す。
それでもバカはしつこく呼びかけてくる。
どうやら彼は次の授業で使う歴史の教科書を借りに来たらしい。
例え相手がバカでも困っていたら情けくらいかけてあげる。自分で言うのはなんだけど私は優しいのだ。
教室まで付いてきたバカに綺麗に使うよう念を押し教科書を貸す。
翌日の社会の授業中教科書を開くとそこには見るも無惨な偉人達のご尊顔が並んでいる。やられた!生存者は数えるほどしかいない…これは間違いなくあのバカの仕業だ。
しかし落書きとはいえなかなかに丁寧な仕事である。
バカの意外にも繊細な仕事っぷりに少しばかりの関心を抱きながら眺めていると不穏な影が背後に迫る。不運にも先生に教科書を覗かれてしまったのだ。
楽しそうだな?
すごい…圧です。
弁明の余地も与えられずに落書き魔として晒し上げられクラスの笑いものになった。
恩を仇で返すとは…あのバカただでは済まさぬ。
絶対にいつかやり返してやると心に決めた。
あの事件から数週間。
昨日の今日で教科書を借りに行っては流石に不自然であるから事件が風化しバカの警戒心が緩くなるまで数週間寝かした。
じっくり熟した計画を今日実行に移すのだ。
私はバカのいる教室に行きバカの教科書を借りた。
バカの教科書を開くと本文が全てピンクの蛍光ペンでなぞってあった。
重要なところを目立たせるための蛍光ペンがまるで意味を為していない事に驚くと共に持ち主に似て教科書も随分と煩いものだなというような事を考えていた。
バカとは違い落書きなんて幼稚な悪戯はしない。
私はバカの教科書の漢字に絶妙に違う読み仮名を振っていった。
これで授業中先生に当てられて教科書を読むことになったときに赤っ恥をかくがいい!
時限爆弾が仕込まれた教科書を私はバカに返した。