金曜日にはお菓子をどうぞ

①ある日僕は勉強に捧げる青春でいいのかと思う

地域で唯一の進学校である高校に入学してから3ヶ月、定期考査を終えて学校にも慣れてきた頃

学校と塾と自宅を往復するだけの毎日に少しもの足りなさを感じていた

学生の本分は勉強であるとは言うけれどせっかくの高校生活

問題集とにらめっこするだけで終えてしまうのはどうかという気持ちが強くなってきた

勿論勉学を疎かにするつもりはないので毎日練習があり、体力を大幅に持っていかれる運動部に入るつもりはない

週に1,2回の頻度で活動している文化系の部活動が望ましい

本来なら4月にある部活動体験の機会に仮入部し所属する部活動を決めるのだが、春先の僕には勉強の事意外考える余裕がなかった

少し出遅れるかたちにはなるがまだ1年の夏休み前、今からでも十分部活動には馴染んでいけるだろう

部活動紹介のパンフレットを眺めながら文化系の部活動を探す

そこでふと目にとまったのが茶道部だった

特に興味があったわけでは無い

本当に偶然視界に入ってきた

現在茶道部には女子部員しかいない

だが男子が入部できないというわけでは無さそうだ

週に1回金曜日の放課後にお菓子とお茶を頂いて1週間を締めくくる

そして土日に机に向かうという流れ、これは勉強にとってもプラスになるだろう

そう考えると段々と茶道部が魅力的に思えてきた

これはもう今週にでも見学に行くしかない

そう心に決めた

 

そう心に決めたのはいいが女子しか部員がいない茶道部に単身突入するのには相応の勇気が必要だった

クラスの友人にも茶道部に入ろうかと考えているという話をしたが

女子しかいないのに入るのかと笑われたどうやら冗談だと思っているようだ

そう考えるのも無理はない

多くの部活動がある中でわざわざ茶道部を選択肢に入れる男子は少ないだろう

 

教室がある建物と渡り廊下で繋がっている別館には図書室があり、その脇にある階段を上ると一室の和室がある茶道部はその和室で活動をしているのだが、薄暗い別館の階段がまた決心を鈍らせる

 そんな意気地無しにも好機が訪れる

今まで部活動にはまるで興味がなかったのでクラスメイトがどの部活動に所属しているのかなんて把握していなかったのだが、どうやら斜め前の席に座る雰囲気のやわらかい彼女は茶道部員だったらしい

席の近い彼女とは以前から休み時間に言葉を交わす仲で数学の成績がよかった自分は度々質問を受けていた

情けは人のためならず善き行いはしておくものだ

彼女に部活の見学をしたいという話をすると快くならば今週一緒に部活に行きましょうと返事をくれた

心強い味方ができた僕はいよいよ今週の金曜日にあの別館の薄暗い階段を上ることになる